クリストファー・ラッシュ 移行対象の破壊

ラッシュは、確かに現在のアメリカ経済のテクノロジーは、基本的な生活必需品を十分にいきわたらせ、そして今や広告によって消費者の欲望をかきたて始めるところまで来たが、そこに生まれた消費文化は、物質に支配された文化、あるいは物質主義ではないという。商品の生産と消費中心主義とは、「鏡や、架空のイメージや、どんどんリアリティーとの区別がつかなくなっていくイリュージョンでできた世界」 なのであり、消費者は、物質ではなくファンタジーに取り囲まれているのである。

(略)

 現代文化のナルシシズム的傾向を助長するものとして、ラッシュは平等主義的家族の出現、子供が家庭以外の社会化をすすめる要因に接する機会の増大、イリュージョンとリアリティーの境をとりはずしてしまう現代大衆文化の一般的な影響の3点をあげている。その中で、ラッシュは、D.W.ウィニコットの移行的対象理論を取り上げながら、大量生産・大量消費に基づく社会では人口のものからなる中間領域が消えていくのだと考えた。つまり、毛布や人形、テディベアなどのおもちゃは、子どもにとって主体と客体の境界領域を占める「移行的対象」だと考えられるが、商品の世界は「作りあげられた環境、つまり夢の世界の形態をとってわれわれの内的ファンタジーに直接アピールする」のである。つまり、「移行的性格」を持たない商品の世界は、自己と周囲をつなぐものではなく、両者の間の違いを抹殺するのだという。

https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/record/11844/files/KU-1100-19890310-01.pdf