斎藤貴男『平成とは何だったのか 「アメリカの属州」化の完遂』

 

無責任の体系・立場主義

 私はその話を聞きながら、梅田事件のときの刑事課長の話を思い出していました。梅田事件というのは、戦後間もないころ北海道北見市で起きた殺人事件です。梅田義光さんという人が捕まり、無期懲役の判決を受けるのですが、これは冤罪でした。30年後に再審請求が認められて無罪になるのです。その時に、『週刊文春』の取材で、無罪の人を殺人罪無期懲役にしたときの裁判官や検察官、取り調べた警察官に話を聞いてこい、というプランでした。

 印象深かったのは、拷問して取り調べた刑事たちのボス、北見署の当時の刑事課長への取材でした。「(梅田さんの再審無罪を)どう思いますか」と尋ねても答えない。食い下がると、「あんた何にも知らねぇんだな。警察ではこういうことは刑事課長に責任があるんだ」。

 ――? あなたこそ刑事課長だったじゃないですか。

「わかんねぇ奴だな。責任は“刑事課長”にあるんで、刑事課長だった俺にあるんじゃねえんだよ」

 と、こうでした。

(略)

 天皇金貨のときは、大蔵省で同じ話を聞いたということですよ。“国庫課長”に責任があるのであって俺じゃない、と。

 

消費税

 かねて日本商工会議所の消費税に対する姿勢を疑問に感じていた私は、あるとき幹部に会って、問いただしたことがあります。「商工会議所は中小企業の団体で、会員企業の多くは消費税の納税に自腹を切らされているはずなのに、どうしてきちんと反対しないのか」と。彼はこう答えました。

「本当は困っている。でも消費税は国策だ。もろに反対したら共産党と同じ立場になる。我々はあくまでも体制内のエスタブリッシュメントのインナーサークルにいたいのだ。だから消費税には絶対に反対しない。その代わりに補助金をいただければよいのだ」

 

文化という障害物

私は1993年(平成5)にイギリスのバーミンガム大学に留学しました。

(略)

 強烈な印象を残したレクチャーがありました。「国際経済政策」のゲスト講師の話です。多国籍企業の幹部がカントリー・リスクについて論じてくれたのですが、彼は進出先の法律や商習慣などをリスクとして挙げたあとで、「最も困るもの」は「culture(文化)」だと言い切ったのです。

 

公安

 私自身の取材では、こんなこともありました。2003年(平成15)に『空疎な小皇帝――「石原慎太郎」という問題』 (岩波書店)を出したときに、中山正暉元建設相に会ったのです。「北朝鮮拉致疑惑日本人救済議員連盟拉致議連)」の会長だった彼は、何度も平壌に赴き、本来は有名なタカ派なのですが、この件については事を融和的に進めようとした。 やたら居丈高に振る舞っても、まともな交渉にはなりっこないのですから当然です。

 すると、風当たりがものすごく強くなったと、中山さんは言います。最初はその石原慎太郎都知事産経新聞の1面に連載していた「日本よ」というコラムで、中山さんを“売国奴”呼ばわりした。単細胞の右翼が、それを見て中山さんの自宅を襲撃する。庭に猫の死骸を投げ込んだり、街宣車を出して、大音響のスピーカーでなじったり。それで中山さんが怒って、デタラメなコラムを書いた石原を訴えた。私はその話を書くために中山さんに会ったのでした。

 今でも忘れられない取材です。そもそも提訴のニュースは、当事者でもあった産経以外の新聞にはまったく載りませんでした。中山、石原の両氏はかつて自民党タカ派集団「青嵐会」の仲間同士です。その2人の喧嘩なのですから、話題性は十分だったのに。

 私があったとき、中山さんが「斎藤さん、私は怖いんです」と言い出したのには驚きました。何がと問えば、「公安警察が」と言う。「この国の公安とはいったい何なんだ」と。

 あなたたちが動かしてる組織じゃないですかと返したら、「そうではありません」。「公安は得体の知れない力を持っている」と、彼は話していました。

 

石原慎太郎、「これからは中国だよ」と言う。

 中山さんからは印象的なエピソードをほかにもたくさん聞きました。彼も石原さんも青嵐会だった頃、中国との国交回復のときですが、メインの条約とは別にいくつかの小さな条約がありました。青嵐会は、共産主義国を認めない立場から、台湾――中華民国を支持していましたので、それらには反対する方針を決めていた。なのに、その採決のとき、中山さんの前の席に座っていた石原さんが、突然、立ち上がった。それで真後ろにいた中山さんに向かって、「正暉さん、これからは中国だよ」と言ったのだとか。私は青嵐会が正しかったと考えているわけではありませんが、この話には、いかにも“空疎な小皇帝”だなと呆れたものでした。 

 

ギルバート本

 ヒットの秘密は何かという話です。編集者さんによれば、それはとにかく日本を褒める、持ち上げることである。今はそういう本が売れる。それも白人に褒めてもらうともっと売れるのだと。そのとおりです。でも、それを言ってはおしまいでしょう。しかも天下の講談社です。 

日本人(の一部…?)にとって白人が、コフートの理論でいう「鏡転移」と「理想化転移」の対象になってる気がするんだが・・・。

 参考URL↓

ja.wikipedia.org

 

『華氏451度』

ブラッドベリは、人々が本を読まなくなる時代を恐れて、これを書いたのだそうですが、今やお上が無理に本を焼き尽くさなくても、人々が勝手に読まなくなる、そういう状況になりつつあると感じます。