ズルズルベッタリの状況追随主義 藤田省三

(1) ズルズルベッタリの状況追随主義からの切断

日本の天皇制社会の原理は、人間社会が自然世界と公然と対立せず、国家が家や部落や地方団体と公然と対立せず、公的忠誠が私的心情と公然と対立せず、全体と個が公然と対立せず、その間のケジメがないままに、どちらが起源でどちらが帰結か明らかにされないで、ズルズルベッタリに何となく全体が結びついているところにある。このズルズルベッタリの状況に区切りをつけないでは、社会運動を起こしても、その結果がどこに吸収されるかわからない。被支配者は、支配者とケジメなく心情的につながっているのだから、被支配者のために、その経済的利益を増やそうとする運動は、やり方如何によっては、ひょっとすると、政治的にはますます支配者を楽にさせる結果になるかもしれない。そこで、ズルズルベッタリ主義的な精神態度や運動の方針を止めさせることが重要な問題になる。

藤田省三『戦後精神の経験Ⅰ』