太宰治『桜桃』 D.W.ウィニコット『人間の本性』

 

・躁的防衛

健康な発達に必要なことは、ある種の真面目さ、自己について疑いをもつこと、黙想に浸る時間を必要とすること、一時的に希望のない局面に陥りやすいことなどがある。抑うつ潜在的で、人格の中核にあり、ある種の真面目になる能力として表面化する。否認された抑うつは、幸福感と休みのない活動性と一般的な元気のよさの背後に隠れている。元気のよさを強調することの背後に抑うつの否認が隠されている。躁的防衛において否認されている中核は、内的な死であり、死の否認がある。

in and out program | 人間の本性

 

 人間が、人間に奉仕するというのは、悪い事であろうか。もったいぶって、なかなか笑わぬというのは、善い事であろうか。

 つまり、私は、糞真面目で興覚めな、気まずい事に堪え切れないのだ。私は、私の家庭においても、絶えず冗談を言い、薄氷を踏む思いで冗談を言い、一部の読者、批評家の想像を裏切り、私の部屋の畳は新しく、机上は整頓せられ、夫婦はいたわり、尊敬し合い、夫は妻を打った事など無いのは無論、出て行け、出て行きます、などの乱暴な口争いした事さえ一度も無かったし、父も母も負けずに子供を可愛がり、子供たちも父母に陽気によくなつく。

太宰治 桜桃

太宰治という人は、「ある種の真面目になる能力」の獲得に失敗した人、と言えるのではないだろうか。