境界性パーソナリティ障害っぽい人が減少している(ように見える)理由

いや、「本当に減ってるのかよ!」というツッコミはあると思うのですが、減少しているという前提で話を進めると、

 しかし21世紀に入ると,境界性パーソナリティ障害(BPD)を外来で見かける機会が急に減ってきました。入院患者数も,減少したと言われていますね。  

 

斎藤 確かに,80-90年代を通じて治療者にとって困った患者の代名詞だった"ボーダー"と定義される人々は,医療現場から遠ざかりつつあるように見えます。  

 

牛島 その理由として,かつてはBPDの診断の目安であったはずの行為が,日常に埋没している状況があると思うのです。   若い女性の手首自傷や過量服薬なども,近ごろでは発達上の一つの挫折ととらえられますし,人間関係が不安定で,男女問題を頻繁に起こすというBPDの特徴も,今はそれほど特殊なことではありませんよね。  

 

斎藤 最近では女子中学生の約14%にリストカット歴があると言われていますし,かつて深刻な病状を表していた行為が,総じて非常にカジュアルにとらえられるようになっているのは確かですね。

変容する社会とパーソナリティ障害のかたち(牛島定信,斎藤環) | 2012年 | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院

 

 私たち臨床医はいわば患者という葦の茎穴から世界を見ているようなもので,大数的統計的な分析を行うことはできない。まして特定クリニックに受診したときにすでに一定のバイアスがかかっているので,一クリニックの経験がどこまで事実であるのか確信がない。それでも私の周囲にいる精神科医たちは最近パーソナリティ障害は「少なくなった」「軽症化した」と述べる。私の印象も同様であるが実数が少なくなったかどうかは疑問である。

パーソナリティ障害は本当に減少しているのか? (精神医学 61巻2号) | 医書.jp

マスターソンの言うように境界例(≒境界性パーソナリティ障害)患者の病理の根底に、母親(母親的な人物)から自立したいという気持ちと依存していたいという気持ちの葛藤(再接近期危機)があるとすれば、

乳幼児の母子分離の過程についての理論を創った、マーガレット・マーラーという精神分析家がいます。  マーラーは、イヤイヤ期が始まる頃(生後15か月くらいから24カ月くらいの時期)を再接近期と呼んで、この時期は、親から離れて自立していこうとする反面、親からの愛情を失うことを恐れて見捨てられ不安が高まり、ふたたび親にまとわりついてくる時期である言っています。

暮らしに役立つ心理学のお話③ | 社会福祉法人みおつくし福祉会 みらい園・のぞみ園

 

マスターソンはBPD患者が経験する幼少期の「分離-個体化の困難」に言及しつつ、「BPDの患者は人生を通じて分離-個体化(とくに再接近危機)の問題にはまって抜け出せない状態にあるようだ」と語った。

「分離-個体化の困難」から考えるBPDの心理的特徴―マスターソンの理論を参考に―|vivie|note

 

インターネットを通じていつでもどこでも常に誰かと繋がっていることが可能になった我々には、対象から自立(分離-個体化)しようという意思が芽生えない(?)から、、と言うことができるのではないでしょうか?

 

実際、いつどこにでも待機していて、どんな問いにも打てば響くようにこたえてくれるメディアは、あの喪われた半身たる母の理想的な代補であり、それと対をなした子どもたちは、電子の子宮とも言うべき閉域のなかにとじこもることができるのだ。言い換えれば、メディアは意地悪く身をかわし続けたりはしない親切な鏡であって、テクノ・ナルシシズム・エージのひよわなナルシスたちは、それを相手に幸福な鏡像段階を生き続けるのである。幸福な、つまりは、外へ出るための葛藤の契機を奪われた、ということだ。

浅田彰『逃走論――スキゾキッズの冒険』)