フロイトの「子供が叩かれる」について

十川幸司『フロイディアン・ステップ』より

「子供が叩かれる」は、フロイトの論文の中でもとりわけ錯綜した構造を持ち、しかも論述が曖昧なゆえに、とっつきにくいものの一つである。何にもましてこの論考の理解を阻んでいるのは、「子供が叩かれる」という幻想が、その後の分析家には全くと言っていいほど経験されなかったということが大きい。(4)

(4) 私の経験では、このような幻想を語る患者は一人もいなかった。メルツァーもそのような症例を一例も見たことがないと述べたうえで、この幻想は一九世紀の現象ではなかったか 、と推測している。