リセット願望

 

Erikson(1959)は、境界例の人が自身の “ 同一性 ” が不確実な状態に陥ると「自我は、感 覚上の伴侶であると同時に、自己の連続的な “ 同一性 ” の保証人である他者との融合のなかで、 性的、情愛的な感覚に自分の身を委ねる柔軟な能力を喪失し突発的な虚脱に見舞われる。続いて、乳幼児だけが知る基本的な混乱と怒りの段階への退行が生じ、もう一度すべてをやり直そうとする絶望的な願望に襲われる」として、「同一性の不確実性」を内在する退行過程とほぼ時を同じくして “ 同一性 ” の再形成のへ願望が生起することを明らかにしている。

 

 Jacobson(1964)は、同じ内容をもつ 2 例の自験例の報告において、「彼らが、感情、空想、行動において、悪い対象から良い対象へ変化(新しい人物ないし関心に付与されるようになった願望的な「すべてよい」イメージから「すべてわるい」イメージを完全に分裂・排除)することは、それぞれの過去を放棄し、それとはまったく分断された新しい “ 同一性 ” を獲得しようとする経験と結びついていた」。そして、それに対する「罪悪感の反応よりも恥と劣等感が優勢であるだけでなく、真実の罪悪感の葛藤がまったく欠如していて、恥と劣等感葛藤や妄想的な人目にさらされる恐怖に悩んでいるときは、決まって超自我と自我における退行過程を推定して間違いなく、それは境界例や妄想型分裂病の状態を示唆している」としている。

境界例における「同一性の不確実性」 

https://archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/DK/0039/DK00390L121.pdf