人生には何事も可能であるかのように信じられる瞬間が幾度かあり、この瞬間におそらく人は普段の目が見ることのできない多くのものを瞥見し、それらが一度忘却の底に横たわったのちも、折にふれては蘇って、世界の苦痛と歓喜のおどろくべき豊穣さを、再びわれわれに向って暗示するのであるが、運命的なこの瞬間を避けることは誰にもできず、そのためにどんな人間も自分の目が見得る以上のものを見てしまったという不幸を避けえないのである。

『愛の渇き』

 

たしかに遠い過去に、私はどこかで、比びない壮麗な夕焼けを見てしまったような気がする。その後に見る夕焼けが、多かれ少なかれ色褪せて見えるのは私の罪だろうか?

金閣寺